移住者インタビュー

Yamagata goodies
結城 こずえ さん

若い人にフルーツの魅力を届けたい

生まれも育ちも山形県天童市の結城こずえさん。20代前半は海外へ飛び出し、ハワイとオーストラリアの会社で仕事をして帰国。英会話関連の企業に就職し、仙台や名古屋で勤務してきました。その後、結婚をきっかけに天童市へUターン。16年間勤めた会社を辞めて農業という新たな扉を開けました。

現在はご両親が営む「まるつね果樹園」を手伝いながら、オリジナルブランド「Yamagata goodies」を立ち上げ、ドライフルーツをはじめとする商品開発を手掛けています。さらには、全国、県内、天童とそれぞれのネットワークに携わりながら、農業、食、暮らしをテーマに活動する結城さん。その活動の経緯や思いについてお話をうかがいました。

Yamagata goodiesのドライフルーツやジュース。ドライフルーツはまるつね果樹園のりんごやブドウ、尾花沢のすいかなどローカルの果物を使っており、驚くほどの甘さや旨みがある。りんごや桃、ラフランスのジュースも香り高い。まるつね果樹園のHPで購入できる。

Uターンして果物農家へ
オリジナルブランドを立ち上げる

幼少期や学生時代は農業をやるつもりは全くありませんでした。就職して仙台や名古屋で働き、天童出身の夫と結婚して2017年にUターン。天童から仙台支社へ毎日通勤していたのですが、頻繁に出張があり多忙でワークライフバランスに悩むようになってきました。

仕事はすごく楽しくやりがいがあるけど、やはり家族が一番大切。そして親が営む「まるつね果樹園」には後継がいない状況で、親の代で終わってしまうのは悲しい。仕事を辞めようかと考え始めた5月のある日、りんごの白い花が畑一面に咲いているのを見て「自分が農園を継げば、もう少しこの景色を長く見られるのかもしれない。少しでも長く守っていきたい」と思いました。果樹園を手伝うことが自分にとっても家族にとっても一番幸せなのかもしれないと、16年間勤めた会社を辞めて農業をやる決意をしました。

天童はとても住みやすいと話す結城さん。「天童市はアクセスの良さが抜群。バスも新幹線も飛行機も乗りやすく、東京や仙台への行き来がしやすいのが便利ですね。大きな病院にも近く、食べ物がおいしく温泉もあって、田舎だけど田舎すぎず住みやすい。山形の中では雪も多すぎないのがありがたいですね」

「まるつね果樹園」は、農薬を極力使わず樹上完熟収穫の果物づくりを続けています。つくっているのは、りんご、ラフランス、ぶどう、桃、さくらんぼ。最初は自分に農業が務まるのか不安でした。果樹は収穫サイクルが年に一回で、芽を落としたり花を摘む剪定、収穫作業など、学ぶチャンスは1年に一回しかありません。自然が相手ですから、いまでも毎年新しい学びがあります。

両親から果物栽培を学びながら、就農1年目に「Yamagata goodies」というブランドを立ち上げて、ドライフルーツやピクルス、ジュースといった加工品の開発を始めました。近年は若い人が果物を食べない傾向にあり、まるつね果樹園のお客様の年齢層も年々高くなっています。若い人にももっと果物を食べてほしいという思いからこのブランドを始めました。

ジュースのパッケージデザインは、東北工科芸術大学出身のイラストレーター・伊藤眸さんによるもの。

若い人たちが生食の果物を食べないのは、値段が高い、食べ慣れていないなどの理由があるので、まずは気軽に手にとってもらうためにワンコインで買えるドライフルーツなどの商品をつくり、イラストレーターさんにラベルをデザインしてもらいました。パッケージの力ってすごいですね。ホテルのレストランでジュースを提供していただいていますが、ラベルのデザインのおかげで、ビンのままグラスを添えて出されています。そして予想外だったのが、内祝いの需要が多いこと。SNSでじわじわと広がり、注文が増えています。

「かわいい」といったきっかけでもいい。Yamagata goodiesのドライフルーツやジュースなどを入口として、果物のおいしさや農園について知ってもらえたらと思っています。

全国の仲間とつながる
「農業女子プロジェクト」に参加

ブランド立ち上げの際は、多くの方にサポートしていただきました。県の農業技術普及課の方にはさくらんぼのピクルスづくりの検証実験を一緒に行っていただいたり、山形の創業塾や山形県のアグリウーマン塾を受講したり、コンサルティングしていただいたり。

コンサルの先生には「自らお客さんのところへ出向いては?」とアドバイスをいただき、仙台のマルシェに出店するようになりました。若い人たちにいきなり一箱5000円のさくらんぼをすすめるのはハードルが高いですから、マルシェではお求めやすい量と価格で販売しています。

農林水産省の「農業女子プロジェクト」への参加も大きな転機でした。女性農業者が新商品やサービス・情報を発信したり、女性農業者の活躍を広く伝えるためのプロジェクトで、就農した年から入会しています。当時は同世代の知り合いに農家さんがおらず、商品開発したくてもパッケージはどこで買うのか、どう販促していけばいいのか、右も左もわからない状態。プロジェクトへの参加をきっかけにSNSで全国の女性農家のみなさんとつながって商品開発のヒントを得たり、一緒に海外の農業フェアに出展するなど、新しいご縁が生まれています。

ただ、順風満帆というわけでもありません。大量生産ではないので原価は高くなりますし、卸販売は難しいことがこの数年でわかってきました。あくまで直売が基本となりますが、ドライフルーツやジュースを通じて農園の果物を知ってもらえたらと思っています。

県内にもつながりを。
「山形農業女子ネットワーク」を発足

こうして全国にネットワークができたので、近くにも仲間ができたらと、2018年2月には「山形農業女子ネットワーク」を立ち上げました。現在は20~60年代の女性で48名の会員がいます。予想以上に反響があり、身近な人との繋がりが求められているのだと実感しました。特に農家のお嫁さんはご主人が事業の窓口になっていることが多く、農業にまつわる郵便物や案内はお嫁さんに直接届くことがありません。社会や情報との接点が少なく孤独を感じている人も一定数いるようでした。

この会では、ブランディングやSNSの活用法など先進的な取り組みをする方に内部講師としてお話してもらう勉強会や研修を企画しています。地域の応援団として地元企業にもサポートいただき、昨年末にはリコージャパン山形支社の方にSDGsについてレクチャーいただきました。

農業女子プロジェクトや山形農業女子ネットワークなどの縁から、フルーツハーブティーやフルーツピクルスなど新商品が生まれているという。

地元・天童でのコミュニティ活動

徐々にJAとのつながりもできてきたので、地元・天童のネットワークとして「JAてんどう女性部フレッシュミズ部会」を立ち上げました。農業者だけでなく、主に20~40代の女性で食・農・暮らしに興味がある人なら誰でも入ることができる会です。

子育て世代のメンバーが多いので、子どもと一緒に門松づくりなどの伝統を学ぶワークショップをしたり、70〜80代の方々から昆布巻きや赤飯の作り方など季節ごとに昔ながらの料理を習ったり、食にまつわるドキュメンタリー映画の上映会を企画したり。

メンバーには他県からの移住者が多く「郷土料理を学びたいけどきっかけがないからこんな機会がほしかった」という声もあります。メンバーで意見を出し合って、シンプルに自分たちが習いたいことを実施しています。

農家の根幹「おいしい果物をつくる」

これまで農林大学校や商工会議所、創業塾などいろんなところへ行って学び、商品開発にチャレンジしてきました。だけどそれはおいしい生産物があってこそ。

両親はインターネットもSNSもなく市場や農協への出荷が9割だった時代に、何十年もかけてそれを逆転させて、いまでは9割がお取り寄せや贈答など直販でやっています。それはシンプルに品質で勝負してきたんですよね。既存のお客様にリピートしていただき、贈られた人から新規の問い合わせをいただくことを繰り返して顧客を増やしてきました。おいしい果物をつくる。その大前提なくして、マーケティングや手広い展開はありえません。

自宅の加工場で納品準備を行う結城さん。農業において冬場はオフシーズン。季節によって生活スケジュールが大きく変わるという。

今も両親から栽培方法を伝承している道半ばです。完熟状態で発送しているので、収穫のタイミングもすごく大切で、繊細な作業になります。例えばさくらんぼは毎日食べて、ちょっと酸味が強いとあと一晩おいてみようとか。ちょっとの差でもお客さんには伝わるんですよね。りんごも霜が3〜4回降りるまで収穫を待ちます。糖度は同じでも蜜が入ることで香りが変わってくるからです。収穫ギリギリまで品質を追求します。

おいしい果物をつくることが一番大切。その根幹をしっかり守ったうえで新しいことにも引き続きチャレンジしていきたいです。両親も「勉強できるときに、いろんなところへ行って勉強しなさい」と応援してくれています。常にアンテナを張って、あまり考えすぎず「とにかくやってみよう!」という精神でやっていきたいと思います。

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